転がり堕ちる

平素から我が道を突き進む高慢な男は悠然と言い放った。
「人の話聞かないよね、ホント…」
世界は自分を中心に回っていると疑わない男らしい態度と言葉に呆れを通り越して感心さえする。
振り回される周りの人間の苦労が思いやられるようだ。
などと自分の日頃の行動を棚にあげたリョーマが溜息を吐き出せば、目の前の男は眉を顰めた。
「テメェがそれを言うのか? あぁ?」
「アンタ自覚無いの?」
比較するなと不機嫌さを隠そうともせず睨みつけた刹那、腕を掴まれて強く引っ張られた。
不意打ちでバランスを崩した身体は正面へと倒れる。
いっそ地面に転がった方が良かったと男の胸に抱きこまれた後で思っても遅い。
「…最悪」
密着する身体を引き離そうともがくものの、体格の差は歴然。
ぎゅうぎゅうと抱き込まれて耳元で低く囁かれる。
「俺は俺が好きなようにさせてもらう。だから、お前も勝手にしろ」
勝手にするも何も身動きの取れない状態でどうしろというのか。
「じゃあ、今すぐ俺の前から消えてよ。んでもって、この手を離せ」
「断る。好きにしろとは言ったが、俺が叶えてやるなんて一言も言ってねぇ」
有無を言わせない口調。
厄介な人間に捕まってしまった。
何が悪かったのか。
尋ねられれば、間違いなく相手の頭の中だと言える。
もしくはタイミングや運といったものか。
「好きになれ…とは言わない」
俺のものになれと言った最初の発言の方がよっぽど問題だったので、今さら驚かない。
恋愛感情と呼ばれるものを向けられていることに戸惑いは隠せないけれど。
「アンタさ、俺のこと物か何かだと思ってるわけ?」
気持ちは必要ないと言われているようで気分が悪かった。
だからと言って彼の想いに応える気持ちは更々無いが、自分のことを金で買える人形と同じに思われているのは酷く不快だ。
相手の思い通りになるものか。
勘違いするなと睨みつければ、男は殊更楽しそうに口の端を釣り上げる。
「勘違いしてるのは、テメェだろ。バーカ」
「馬鹿はアンタの方じゃん」
馬鹿に馬鹿と言われたくない。
むしろこんな茶番にいつまでも付き合っていられない。
「これ以上は時間の無駄…」
腕が振り払えないなら蹴りの一つでも不意打ちでいれて逃げてやろう。
だが、こちらの考えは顔に出ていたらしく簡単にかわされる。
「逃がすわけねぇだろ」
細められた瞳には鋭い光が宿っていて。
「諦めろ」
獰猛な獣を思わせるそれは、リョーマを獲物として確実に認識していた。
「俺を好きにならない奴なんて居ないんだよ」
「自意識過剰。てか、やっぱり馬鹿?」
ぎらぎらとした強い光に思わず怯みそうになるのを隠して平然を装おうも、あっさりと見抜かれる。
「言ってろ。結末はどうしたって変わらねぇ」
覚悟しろと顔を近づけた男は、無防備なリョーマの唇をあっさりと奪い去って。
「テメェは俺に惚れる以外の道はねぇんだよ」
瞬間、ぐらついたのは突然のキスに眩暈を覚えた意識か、それとも心か。
全てを支配する王の如く高らかに笑う男の声がやけに耳に響いた。

この時、既に奪われていた。
そう気づくのは、もう引き返せないところに来てからのこと。