※ハロウィンということでパラレルで吸血鬼ネタ。
01. 赤い花
目の前に一輪だけ差し出された薔薇をリョーマはあっさりと振り払った。
花に罪はない。
だが、花を手に取ることは目の前の男を受け入れるという意味を持っているから突っぱねるしかないのだ。
「いい加減諦めろよ」
「その言葉、アンタにそのまま返すね」
夜毎繰り返されるやりとりもうんざりだとリョーマが大きな溜息を吐く。
「てか、薔薇とか俺の趣味じゃないし」
気を惹くならもっと別の物を持ってくるべきだ。
尤も何を持ってこられたところで男の正体を知っている時点で、素直に受け取ることなど出来ないのだけれど。
笑う男の口元から時折覗く鋭い牙を目にする度、朱色の花から血の赤を連想するのは当然のことで。
「ホント悪趣味」
頬に伸びる手から逃れるように距離を取った。
02. 私を腐らせてよ
変わらないことへの価値を見いだせる人間を相手にすれば良いのに。
男が語る永遠は、リョーマにとって然程興味を惹くものではない。
「アンタとずっと一緒ってのが勘弁願いたいね」
「そこは泣いて喜ぶとこだろ?」
どこからその自信がくるのか。
呆れた眼差しを向けられても男は気にした様子を見せず、むしろ面白がってリョーマの頬を撫でる。
「テメェらの時間は短いからさっさと選べよ」
この手を取れと耳元で低く囁かれ、全てを拒絶するように瞼を閉じた。
きっと、この男は朽ちていく道など選ばせてはくれないのだろう。
03. ( いまも待ってる )
男と出会ってからどれ程の時間が過ぎたのか。
相手にすれば、瞬く間だと答えるに違いない。
リョーマには酷く遠い日に思えるそれを、男はいつだって昨日のように話す。
「アンタはいつまで待つ気?」
あまり気が長いようには見えないくせに、急かすことも力任せに要求を呑ませることもしない。
今も隣に当たり前のように座る男に常に抱く疑問を投げかける。
別に明確な答えを求めていたわけじゃない。
「さあな」
予想通り、男ははぐらかすだけで答えない。
いつもなら此処で早く飽きれば良いと冷たく言い放つところだが、今日に限って声が寂しそうに聞こえてしまったから。
「ふーん」
喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込んだ。
04. 柔らかな爪
毒されている。
気付いたというより実感した時にはもう遅いのだろう。
抱き締めてくる腕に包まれるリョーマは、まるで他人事のように考えていた。
だって仕方ない。
ふわふわと身体が浮くような感覚が自分を包んで、現実感があまりないのだから。
「どうした?」
「…別に」
特別何かを思ったわけじゃない。
首筋を噛まれるのは痛いとか、ぐらりと視界が揺れるように感じるのは貧血だろうかとか。
現状に対するありきたりな感想がそこにあっただけで。
「アンタこそどうしたのさ?」
そんな自分と反対に、不安を映すように揺れる眸を見たら思わず笑い出したくなった。
あれ程自分を選べと言っていた男が何故今になって後悔した様な顔を見せるのか。
「馬鹿だよね、本当」
掴む手は優しくありながら、獣を思わせる爪が離すまいと肌を刺す。
最初から逃がすつもりなんて無い癖に。
溜息混じりに吐いた嘆きは、男の腕の中に飲み込まれた。
05. 痛みならここにある
首筋を流れる赤い血。
傷はすぐに塞ぐことが出来るはずなのに、男は中々それをしない。
舌先で何度も何度も肌をなぞり、満足すると最後に傷痕にキスを落とす。
そしてリョーマを抱く力を強めるのだ。
「だから平気だっていつも言ってんじゃん」
毎度毎度、居なくなることを恐れるかの如くしがみつく男に苦笑いしか出ない。
消えるはずなんて無いのに。
そうなる道を作ったのはこの男なのに。
「てか、そんな心配なら我慢すれば良いじゃん」
リョーマが呆れ気味に指摘すれば、無理だと即答するから性質が悪い。
「テメェが望んだんだろ」
「痛いのは嫌だって言ったんだけど?」
不遜な男の態度が気に入らなくて逃れようと身動ぎするも、腕の拘束はやはり緩まない。
相手の気が済むまで無駄だと判断したリョーマは、馬鹿と男を罵りながらその胸に頭を預けた。
前奏曲 第十一番より 配布元:capriccio