彼が猫になっちゃった!

原因は不明。
分かっていたらとっくにどうにかしている。
突然猫のような耳と尻尾が生えましたなんて、そんなこと。
「お前違和感ねぇな」
「全然嬉しくないんだけど」
少しは変化に驚くだろうと思った恋人の反応は意外にあっさりとしたものだった。
本人自体が規格外だからこの奇妙な現象に対してもそんなに可笑しいと思わないのかもしれない。
リョーマ自身、相手が驚かないから逆に落ち着いてしまった。
何とかしてやると言ってくれた跡部の言葉に嘘はなく、彼なら本当にどうにかしてくれると思ったからかもしれない。
「苦しいとか、気持ち悪いとか体調の変化はあったか?」
「無いよ。大丈夫」
「そうか。少しでも変わったことがあればすぐ言えよ」
突然、リョーマの頭に生えた猫と同じ耳を無遠慮に触る跡部は不思議そうな表情ではあるが、興味はあまり無いようだった。
むしろ心配という感情が見てとれてくすぐったいような気持ちになる。
「何も思わないの?」
「耳と尻尾が生えたから何だってんだ?」
気味悪がられたり、かわかわれたりするのは勿論嫌だ。
でも、無反応なのもムカつく。
「…別に」
リョーマが不機嫌さを隠すことなくそっぽを向けば、耳を触っていた手がくしゃりと頭を撫でた。
「耳下がってるぞ」
「耳…?」
ペタンと後ろに寝かせられた耳を指す跡部にハッとする。
「こういうのもたまには有りだな。分かりやすくて良い」
慌てて両手で耳を押さえて距離をとった。
「煩い!」
今さら隠したところで遅いと笑われてリョーマの顔が顔を赤く染まる。
相談しようと思った相手が悪かった。
怒りのまま跡部を威嚇するように睨みつければ、輝かんばかりの笑顔で両手を広げられた。
耳は隠すことが出来ても尻尾が感情を反映してゆらゆらと動いていることにリョーマは気付いていない。
「ほら、来いよ」
手を伸ばす跡部の態度は恋人に対するものというよりペットに向けたものに近い。
わざとやっていることは明白で、少し前の感動を返せと言ってやりたかった。
「絶対にヤダ」
プイッとそっぽを向いてみても効果はなく、相手を喜ばせるだけだった。
先刻までは興味なさそうだった跡部のスイッチが可笑しな方向に入ってしまったらしい。
「猫じゃらしでも用意してやろうか?」
「その前にアンタのご自慢の顔に傷がつくよ」
嬉々とこちらを見る姿が実に憎らしい。
「ハッ!やってみろよ。その前に啼かせてやる」
リョーマの些細な威嚇など痛くも痒くもない。
「ちょっ、ヤメロってば…!」
こうして余裕たっぷりの跡部の挑発に乗ってしまったリョーマは、元の姿に戻るまで猫のように構い倒されるのだった。


彼と彼女のファンタジーな展開7題 より
配布元:確かに恋だった。