欲しいと心から望むものは、自分の力で手に入れてこそ意味がある。
待つなど性分ではないし、人から与えられたとなれば価値も下がってしまう。
リョーマから最初の約束を取り付ける為に跡部が使ったのは、やはりテニスだった。
案の定、驚いてはいたものの跡部の申し出は断られなかった。
一度誘ってしまえば後は簡単で、別れる際に毎回次に会う予定を作る。
回数を重ねるとこちらから言い出す前にリョーマから尋ねてくることさえあった。
互いの共通点はテニスだけだったが、テニスの後に夕食を一緒にとったり、海外のプロの試合をあれこれ話ながら見たりしているうちに、テニス以外の予定でも連れ出せるようになった。
ある時はリョーマが気になると溢した話題の映画を見に行き、またある時は美味しそうだと目を輝かせていたテレビの特集で見た和食の店に連れ出した。
遊園地も嫌いじゃないと言ったリョーマに、今度行くかと聞いたら、流石に気が引けたのか首を横に振られてしまったけど。
「跡部さんは楽しいんすか?」
これは最近よくリョーマに問われる疑問である。
「お前は見てて飽きないからな」
単純だと鼻で笑えば、すぐに不機嫌そうに顔を逸らされる。
きっと、リョーマは跡部の行動を金持ちの道楽だと思っているに違いない。
彼の好きだという炭酸飲料のような安いものから、一見客お断りの高級料亭の懐石料理まで。
奢られるという状況が続いて躊躇するリョーマを言いくるめて振る舞ってきた。
先輩とはいえ他校生にそこまでしてくれる理由は何か。
不思議そうに尋ねられる度、部活を引退して暇なのだと繰り返した。
勿論、本音ではない。
「アンタって意外に甘いんすね」
故に年下や手のかかる人間の世話をするのを買ってでる物好きと思われている。
それも跡部の計算のうちだった。
警戒心が強いと思ったのは最初のみで、テニス一つで知人程度の人間に着いてきた上に物でそこそこ懐柔出来た。
青学のメンバーまでとはいかなくとも、肩を寄せる距離に立つことや軽いスキンシップを跡部に許している事実が示す意味にリョーマは気付いていない。
あと少し。
カウントダウンを密かに進めながら、緩みそうになる口元を押さえる。
「明後日は空いてるか?」
いつもの調子で次の約束を切り出す跡部にリョーマが迷う間もなく頷いた。
「帰りに迎えに行くから大人しく待ってろよ」
「了解っす」
断られない自信があった反面、気まぐれなリョーマの行動を心配していた部分もあった跡部はホッと胸を撫で下ろした。
準備は整った。
もうすぐでこの手の中に全てが転がり込むと想像するだけで、跡部は笑い出したい衝動に駆られた。
だが、此処で気付かれるわけにはいかない。
リョーマを家まで送った跡部は、遠くなる小さな背中を見つめながらほくそ笑んだ。
そして、迎えたその日。
壁際に追い詰めたリョーマは、驚愕に目を見開いていた。
「跡部さん?」
信じられない。
揺れる眸が言葉無くとも語る様を見て、跡部の眼が細められる。
「本当に何の見返りも期待してないと思ってたのか?」
「だって、アンタは」
「馬ー鹿。下心あるに決まってんだろ」
綺麗な弧を描いた跡部の口元が真実を告げると、一回り近く小さな身体が逃げようと両手を伸ばす。
その手を絡め取って押さえつけ、唇が触れる手前まで顔を近づけた。
「テメェが悪いんだよ」
リョーマを通した部屋に置かれた数々のプレゼントを見た彼が今日が誕生日だったのかと尋ねるから、そうだと答えて。
「プレゼントの代わりに、出来ることなら叶えるだって?」
「…出来ることってちゃんと言ったじゃん」
無茶な願いを言われないように保険を掛けたと主張するリョーマの唇を跡部は奪った。
一瞬硬直した身体は事態を理解した途端に暴れ出したが、跡部にとって想定内の些細な抵抗でしかない。
何より、自分を見るリョーマの眸に嫌悪とか拒絶の色は見つけられなくて。
「お前以外、要らねぇよ」
止めとばかりに震える身体を強く抱きしめた。