じりじりとリョーマを追い詰めた跡部は、意地の悪い笑みを張り付けたまま無言の圧力をかけてくる。
目的地へと走り続ける車内で逃げ場などない。
普段大した理由もなく人を呼びつけるから完全に油断していた。
いずれはバレることだと分かっていたが、予想していたよりもずっと早かった。
「…青学に行くって話はしたじゃん」
一応話はした。
跡部の通う氷帝学園には行かないこと、青春学園に通うということ。
この二つは確かに跡部に話した。
「そういえば、それは聞いたな」
隠し事だなどと言って人を詰問する前に自分の記憶力を疑え。
「てかさ、別に誘われてないし」
「あぁ?」
「むしろ一緒の学校は嫌だって言ってた」
過去のやりとりを思い出してリョーマはあからさまに溜息を吐いた。
チラリと跡部を伺えば、如何にも知りませんという表情。
「誰がそんなこと言った?」
案の定、聞き返してきた男に更に溜息が零れる。
「アンタだよ、アンタ。自分で言ったこと忘れて人を責めるとかどうなの?」
信じられない。
自分を振り回す暴君はいつもこうだ。
「俺様がお前より記憶力悪いはずがねぇだろうが」
予想通りの答え。
「よく言うよ…」
呆れたリョーマはこれ以上話を続けるのも嫌だと視線を逸らす。
「オイ。こっち向け。ちゃんと分かるように話せ」
「やだ」
「だったら全部お前の思い込みになるぞ」
説明するのも馬鹿馬鹿しいし面倒くさい。
相手にしたら駄目だと分かっているのに、此処で挑発に乗ってしまうのがリョーマであった。
「どうしてそうなるのさ!」
「事実だろ。言えないってことは作り話じゃねぇのか?」
「作り話って何だよ…お前の面倒見るのは御免だって言った癖に」
煽られてつい口から出てしまった本音は何処か悔しげで。
「へぇ」
逆にリョーマの反応を見た跡部の口元が綺麗な弧を描いた。
先刻までの不機嫌さが消え声に楽しそうな色が滲む。
「それでお前は拗ねて青学に行ったのか」
「…拗ねてないし、アンタのことは関係無いよ」
余計な一言のせいでリョーマにとって更に良くない方向へと傾き始めた。
「相変わらず素直じゃねぇな」
「アンタの思考回路はいつも理解出来ないね」
「虚勢張ったって無駄だ。ほら、ちゃんと俺様の眼を見て言え」
そっぽを向いたまま動かないリョーマの両頬へ跡部の手が伸びる。
「痛っ」
些か強引に合わせられた視線の先。
静かにこちらを見据えるアイスブルーに動きが止まった。
「確かにお前の面倒を見るのは厄介だが、俺の居ないところで好き勝手されるのも気に入らねぇんだよ」
「…意味分かんないんだけど」
矛盾する跡部の言葉にリョーマは眉を顰める。
そもそもこの男に面倒だと言われたから氷帝を選ばなかったのではない。
「やっぱりお前の方が物覚えが悪いな」
「余計なお世話」
苦々しく吐き出せば、跡部が肩を竦めてみせる。
そして。
「俺から離れるなって言ってるんだ。何故ならお前は俺様の隣に在るべきだからだ」
数年前と同じ台詞を至極当然の如く言い放った。
「また、それかよ…」
幼い頃から繰り返し聞いた言葉はもう聞き飽きた。
勘弁してくれと項れるリョーマの口から本日何度目になるか分からない溜息が漏れる。
「ほんっと、最悪」
こちらの都合お構い無しでリョーマを振り回す跡部も。
結局はそんな男に流されてしまう自分も。
特別だと勘違いして揺れる心も。
全部、最悪だ。
でも、一番悪いのは幼い頃の決め事を理由にして中途半端な関係を続ける自分。