6.逸らした視線と見つめる眸

あの日、跡部が追ってくることも連絡が来ることも無かった。
その前から既に連絡をほとんど取っていない状態だった為、あの喧嘩別れのような形で言葉を交わしたのが最後だ。
鳴らない携帯電話を確認する度に跡部へ抱き続ける感情を突き付けられている気がして。
こんなに気にするのはらしくない彼の姿を見たせいだ。
きっとそうに違いないとリョーマは否定し続けた。
跡部だって今頃はリョーマとのやりとり等忘れて別の誰かと過ごしているに違いない。
自分だけが気にしている状態が厭で堪らなかった。
もう絶対に会うものか。
連絡だって取らない。
そう決めていたのに。
忘れていた訳では無かったけれど、次の対戦校は跡部が部長を務める氷帝学園であり必然的に顔を合わせる形となった。
「手塚部長…俺の試合無いなら帰って良いっすか?」
「駄目に決まっているだろう」
何とか跡部を回避出来ないかと思い、不本意ながら補欠となってしまった立場を利用して逃げようとすれば、当然の如く手塚に却下された。
更にはチームプレイが何たるかだの長い説教を受ける羽目になり散々だった。
これも全て跡部のせいだ。
そもそも、何故自分があの男にこうも振り回されなければいけない。
リョーマに否は無いのだから逃げ回る必要など無いのだ。
どうせ、外で会えば他人のフリをするに決まっている。
何も恐れることは無い。
いつも通り振る舞えば良い。
面白い試合に興味があると言って先輩達の試合をただ応援するだけ。
ほら、何も変わらない。
そんな考えは甘かったのだろうか。
「何か跡部さんやたらこっち見てるような気がするだよなぁ」
始まった対氷帝学園戦。
自身の試合を終え隣で観戦していた桃城に尋ねられたリョーマは小さく肩を震わせた。
「気のせいじゃないっすか?」
内心ギクリと心臓を跳ねさせたことは一切表に出さず冷静を装ったまま否定するも、桃城は納得しない様子で。
「気のせいじゃねーな、気のせいじゃねーよ。ただ俺だけっていうより俺とお前を見てるような気がするんだよなぁ…」
「…そうっすかね?」
すっ呆けるリョーマに構うことなくぶつぶつと喋る桃城。
面倒なことになるかもしれない。
試合に集中しろ。
跡部を気にする桃城とこちらを見ているらしい跡部に対し叫びたい気持ちになった。
「やっぱストリートテニスでのことが原因か? お前、跡部さん挑発してたもんな」
「そんなことありましたっけ?」
覚えていないと首を傾げるリョーマに桃城がわざとらしく溜息を零す。
「てか、跡部さんって誰?」
「お前なぁ…」
名前すら知らないと言うなりストリートテニス場でのことと、跡部について軽く説明を受ける羽目になり今度はリョーマが溜息を吐いた。
他人から聞かなくても跡部景吾のことなど嫌という程知っている。
しかし、跡部との繋がりを桃城に言えるはずもなく。
「猿山の大将のことっすか?」
「あの人にそんなこと言えるのお前くらいだぜ」
いつか口にしていた跡部に対するリョーマのイメージをそのまま口に出すと桃城に苦笑された。
「お前が生意気なのはいつものことだけど、あんまり挑発とか軽々しくするなよ」
そして、話題は何故かリョーマの日頃の行動に向かい。
ポンポンと頭を叩いて子供のように宥められる。
相変わらずこの人はお節介だなんて思っていると、ポケットの中に入れていた携帯電話が振動した。
マナーモードになっていて誰にも気づかれなかったのは幸いだった。
このタイミングを踏まえれば相手など確認するまでもない。
視界に入れないようにしていた跡部が居るだろう位置から一層強い視線を感じたリョーマは唇を噛めた。
「アンタなんて知らない…」
誰にも聞こえない声で吐き出されたそれは、言葉とは裏腹に切なさと焦燥に満ちていた。