試合は青学の勝利で幕を閉じた。
跡部が手塚との試合に勝っていたが、持ちかけられた勝負はチームの勝敗を掛けたものだからリョーマの勝ちで間違いないだろう。
現に跡部はこちらを見ることなく去って行った。
「何だよ…」
勝手に連れて行くと言いながら結局はリョーマなど見向きもしないで離れていく後姿を見て、また男の気まぐれに振り回されただけかと唇を噛みしめる。
本当は攫って行くつもりなど無かったのではないか。
跡部の性格上、周りを無視して強行するなど造作もないことだ。
ただ、リョーマを本気で自分の傍に置きたいと思っていたかどうかの問題だけで。
「要らないなら要らないって言えば良いのに」
それなりに長い付き合いだからこそ捨てきれないのかもしれない。
幼い日のものとはいえ、我儘を言って取り付けた約束を反故出来ないとか。
跡部らしくない。
「…畜生」
考えても分からないし、跡部の心がリョーマにあるとは思えない。
打ち上げの帰りに一人になったリョーマは携帯電話の液晶に跡部の番号を表示させる。
ちなみに試合が終わってからメールや着信などの連絡は一切ない。
反応の無い現実が寂しいとか、自分だけ想い続けるのが辛いとか。
普段ならば口にすることなく飲み込んでしまうのに、今日は出来なかった。
多分、限界だと思ったのだ。
跡部はリョーマが考えるより、ずっと遠くて。
込み上げるのは、もどかしさと悔しさ。
跡部が終わらせないつもりなら、自分が終わらせるべきだと思った。
「…出ない」
別れを告げたら動揺してくれるだろうかなんて淡い期待を抱きながらコールすること数回。
そろそろ二桁になるが、無機質な電子音が響くだけで出る気配はない。
気付いていないのか、はたまたリョーマからの着信だから取らないのか。
「景吾の馬鹿」
「誰が馬鹿だって?」
応答の無い電話に焦れたリョーマが舌打ちと共に電源ボタンを押すのと同時に聞こえたのは、不機嫌さを隠さない低い声。
今まさに電話を掛けていた相手の登場に驚きつつ振り向いたリョーマは、文句のひとつでも言ってやろうと思っていた。
しかし、酷く冷たい眼をした跡部を前に言葉を失う。
「着いて来い」
乱暴な手つきでリョーマの腕を掴んだ跡部はそのまま彼が乗ってきた車へと無理やり押し込んできた。
「ちょっと!?」
「黙ってろ」
反論を無視して動き出す車。
どうせ行先は跡部の家で間違いないだろう。
いつもと変わらない。
変わらないはずなのに落ち着かないのは、車に乗るなり無言になってしまった跡部のせいだ。
直接リョーマを見ない代わりに、窓越しに様子を伺っている。
時折、何か言いたげにこちらを振り向きかけて止まる動作を数度繰り返す跡部に居心地の悪さを感じた。
やはり跡部らしくない。
余程言い難いことなのかと考えて、頭を過る決別の二文字。
跡部は心を決めているのかもしれない。
ならば、リョーマから敢えて告げるまでもないだろう。
結末が見えている中でこれ以上考えるのは不毛だし、跡部に振り回されるのも疲れた。
漸く煩わしい感情から解放される。
そう信じて疑わなかった。
だからこそ、思わず手が出てしまったのだ。
跡部の部屋に連れられるなり抱きしめられ、キスをされた時は。
乾いた音が室内に響き、腕の力が緩んだ隙にリョーマが距離を取る。
別れのあいさつにしてはやり過ぎた。
ふざけるな。
見下す跡部を睨むリョーマが口を開こうとした瞬間。
「テメェ…いい加減にしろよ」
鈍い音と共に壁に追い詰められる。
あと少しで触れるという距離で目にした、燃える炎に似た激情を潜めた眸。
どうして。
浮かんだ疑問は、近づく唇に飲み込まれた。